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平成23年度科学奨励賞および技術奨励賞受賞者の決定

当部会の平成22年度部会奨励賞(科学奨励賞,技術奨励賞)の選考委員会が,平成23年1月21日に化学会館にて開催され,推薦された候補者(科学奨励賞8名,技術奨励賞0名)について慎重に審査を行った結果,下記の2名の方が科学奨励賞に出席委員全員の合意で選出されました。また同日行われた部会役員会において,受賞者として承認されたのでここに報告します。

第10回 科学奨励賞 受賞者

並河 英紀 氏  山形大学理学部物質生命化学科(申請時・北海道大学大学院 理学研究院化学部門) 
「ナノ空間での分子集合体構造制御と分子操作に関する研究」

藤森 厚裕 氏  埼玉大学大学院 理工学研究科物質科学部門(申請時・山形大学大学院理工学研究科) 
「機能性原子団を含む櫛型共重合体組織化膜の分子配列制御」

第8回 技術奨励賞 受賞者

応募者なし

選考理由

並河氏は,固液界面上で自己組織的に成長する脂質二重膜に関して拡張DLVO理論による速度論解析法を確立するとともに、この自発展開膜を利用した微小空間での分子集合体構造の特異性を実験的に明確にして、これを利用した新奇分子操作法を提案した。固体基板上に自発展開する単層脂質二分子膜の流動ダイナミクスを拡張DLVO 理論に基づく相互作用で定量的に評価し、自発展開の物理化学的メカニズムを明確にすることに成功した。この流動現象を利用してメソスコピック空間に生成させた2重膜の構造変調を理論と実験にによって解析し,微小間隙における分子分別能,つまり“フィルター”効果を見出した。この新規ナノ空間分子フィルター機構は生体膜での分子分別や制限空間の膜状態への影響を示した点で意義がある。これを新規な分子操作法として提示し,実用化へ展開を進めている。 以上のように,並河氏の業績はメソスケール空間における物理化学的特異現象に関する新たな基礎的知見を与えただけに留まらず、応用研究として発展可能な側面をも有する重要な研究成果を得ており,その達成度や発展性が高く評価された。今後もさらにこの分野での発展を期待し,ここに推薦するものである。

藤森氏は,分子集合系の高次組織に新規物性を発現させるために,bulky で平面性のπ共役系機能性原子団と結晶性側鎖を共に有する,側鎖結晶性『櫛型共重合体』の分子配列を制御する方法によって達成し,新規な材料開発へと展開した。bulky で平面性の機能性原子団を有する高分子化合物の結晶化はもちろん,機能性部位を配向機能化することも困難であるが,氏は“側鎖結晶性”櫛型共重合体を新規合成し,機能性部位をペンダント状に主鎖側からぶら下げて結晶性化合物とし,更に界面分子膜の手法でこれらを1 分子層レベルから官能基の配列制御を施し,bottom-up 法で積層してナノ層状組織体を形成させることに成功した。たとえば,炭化水素およびフッ化炭素側鎖を導入したN-ビニルカルバゾール「三元」櫛型共重合体はナノ周期構造を有する新規 “ポリマーナノシート”が形成し,側鎖の共重合比によってその層間隔が制御された.また,芳香族ポリアミド系では,側鎖のアルキル鎖長によって表面形態が制御され,ポリマーナノスフィアニ次元集積構造が形成された.さらにそれを積層すると構造色を示すとともに緑色に発光し,新規の光学材料として期待される。 以上のように,藤森氏の業績は高分子薄膜の構造制御を精密構造制御の観点からのアプローチであり,これらの研究はその達成度が高く評価された。今後更に有機薄膜界面の化学の進歩に貢献されることを期待し,ここに推薦するものである。

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