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平成24年度科学奨励賞および技術奨励賞受賞者の決定

当部会の平成24年度部会奨励賞(科学奨励賞,技術奨励賞)の選考委員会が,平成24年1月31日に化学会館にて開催され,推薦された候補者(科学奨励賞5名,技術奨励賞1名)について慎重に審査を行った結果,下記の2名の方が科学奨励賞に出席委員全員の合意で選出されました。また同日行われた部会役員会において,受賞者として承認されたのでここに報告します。

第11回 科学奨励賞 受賞者

大久保 貴広 氏  岡山大学大学院自然科学研究科機能分子化学専攻 
「ナノ制約空間中で形成される異常な水溶液構造」

原 雄介氏  産業技術総合研究所ナノシステム研究部門 
「生体環境下で駆動する新規自励振動高分子の創製とソフトアクチュエータへの応用」

第9回 技術奨励賞 受賞者

応募者1名のため選考せず

選考理由

大久保貴広氏は、ナノオーダーの固体細孔内における分子やイオンの特異な構造を解明する研究を中心に、水溶液中での種々のコロイド系の創製など、広くコロイドおよび界面化学の研究をすすめてきた。特に、1 nm程度以下のナノ空間中における電解質水溶液の構造に関する研究は、2002年のJACS誌上での報告以来、コロイド界面化学分野の新たな研究領域として注目されている。同氏は研究の初期の段階では、活性炭(AC)のナノ空間中で形成されるアルカリ金属イオンの水和構造を検討した。例えばルビジウムイオンの第一水和殻の構造に関して、精密XAFS測定により、平均細孔径が0.7 nmのACナノ空間中で形成される水和構造はバルクの構造と比べた場合、第1水和圏までの距離が約0.03 nm減少すると共に、その水和数も減少し、圧縮されて歪んだ構造を有していることを明らかにした。また、単層カーボンナノホーンのナノ空間中におけるルビジウムイオン近傍の水和構造についても配位数の減少を見出した。2011年には、銅および亜鉛イオンでは金属イオン近傍の水和構造の特徴をXAFS測定から明瞭に捉えることが可能であることを利用して、ACおよび単層カーボンナノチューブ(SWNT)のナノ空間中に制約された亜鉛イオンの水和構造を時分割XAFS測定も含めて詳細に検討し、その結果をJ. Phys. Chem.Cに発表した。1 nm以下のナノ空間中では水和数が約20%程度減少した不安定な構造でも、細孔のポテンシャル場がその不安定化を補うことができることを示しており、理論計算上でしか予想されていなかった1 nm以下のナノ空間中での異常な水和構造を実証した最初の報告である。
 以上のように大久保氏は、緻密な実験手法を積み重ねて固体細孔内におけるイオンの水和構造を明らかにしており、制約空間におけるイオンの物性や構造の知見が必須である電気二重層キャパシタなどの電極材料や、生体内で起こる様々な反応に関する基本的な研究などにも影響を与えることが期待される。今後も当該分野の研究をますます発展させ、またコロイドおよび界面化学部会活動においても先導的役割をしていただくことを期待して、ここに推薦するものである。

原雄介氏は、これまで、生命体のように自励駆動する分子システムを、自らリズムを発し周期的なパルスや空間パターンを生み出す非線形反応として知られているBelousov - Zhabotinsky(BZ)反応を用いて構築する手法の確立を行ってきた。高分子鎖内部にBZ 反応の金属触媒を導入することで、ポリマー鎖の親・疎水性が周期的に変化するため、ゲルでは膨潤収縮挙動を、リニアポリマーではコイル・グロビュール転移が誘起され、それに伴った溶解と不溶解の周期的変化を透過率振動として観測することができる。特に同氏は、自励振動型高分子の分子デザインでは駆動環境がBZ 反応場(pH 1 以下)に限定されているために応用範囲が限定されるという致命的な欠点を解消するため、段階的な分子設計を踏むことによって、駆動環境を生体環境場のような非常にマイルドな環境にまで拡張させることに成功した。また自励振動挙動を外部環境の変化(入力)によっても自在にon-off スイッチングさせることを可能にし、AFM による高分子一本鎖の振動挙動を直接観察することにも成功している。さらに高濃度の高分子溶液について、粘度の自励振動挙動を捉えることに初めて成功している。近年では、自励振動ゲルの変位(25 倍)及び発生応力(200倍)を大幅に改善することにより、自律歩行型ゲルや表面の蠕動運動により自律物質輸送が行えるゲルコンベヤーシステムを創製するなど、「ケミカルロボティクス」といった新しい研究分野を積極的に切り開いている。これらの業績により、ケミカルロボティクスの研究においては世界的に最も権威のあるロボット国際学会の1 つであるInternational Conference on Intelligent Robots and Systems (IROS 2007)においてHewlett-Packard Most Innovative Paper Award など多くの賞を受賞している。
以上のように原雄介氏は、独創的な分子設計や自励振動現象に対する鋭い洞察力によって、自励振動型高分子の適用範囲を大幅に改善するとともに、これに関連する多数の顕著な研究業績を挙げてきた。今後も当該分野の研究をますます発展させ、またコロイドおよび界面化学部会活動においても先導的役割をしていただくことを期待して、ここに推薦するものである。

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